2014年7月14日月曜日

狼の王子

狼の王子 ハヤカワ 新書版HPB クリスチャン・モルク(著) 堀川 志野舞(訳)

 先日、本屋で仕入れてきたうちの1冊。以前、本屋で入手しようか迷っていた本。あらすじを読んで、三人の女性の死体、悪魔的な魅力を持つ男、死者の日記、とワードを抽出してみた。
 当然のことながら男女間のドロドロが書かれていると推測。読んだことはないが、ハーレクインぽい内容なのかもしれんと思ったのである。男女間のドロドロで、三人の女性の死体だからなあ。わたしの不得意分野だし一度はスルーした。
 すこし言い訳。ハーレクインの作品がどんなものだか読んだことがないので想像でしかないが、男女間の性愛・愛憎劇が主な内容だと想像される。これにあらゆる味付けがされているのだろう。かつターゲット層は成人女性全般というところだろう。こういうイメージをハーレクインに抱いている。中らずと雖も遠からずなのじゃないかなあ。

 そういうわけで一度はスルーしたものの“狼の王子”というのはなにか幻想的だし、タイトルから“狼の伝承”的なものも書かれいるような感じがする。そのあたりに心惹かれるものもあった。
 なにしろ狼である。狼に関しては少なからず思い入れがある。高校3年の1年間は昼休みに図書館に逃げ込んで“オオカミと人間”という本を読んでいるフリをし続けたから。以前にブログ書いているな。わたしの何度かある暗黒時代だ。
 それはさて置き、読んでいるフリとはいえ来る日も来る日もなので一通りは読んでいる。そのなかに狼に関する神話とか伝承が記載されていたのは憶えている。
 狼は時代、地域により扱われかたが様々で悪魔的であったり英雄的であったり、それらが混ざったりして興味深かった。そんなこんなで迷ったすえに入手してみたわけである。

 だいぶ前フリが長かったが、本題の感想的なもの。前フリで推測したように“男女間のドロドロ(男女間の性愛・愛憎劇)”“狼の伝承”はそれはそれはタップリ詰まっていた。
 わたしが苦手だなと懸念していた“男女間のドロドロ”はあったが、わたしの懸念は作者の筆力により大きく覆された。
 事件の真相は日記という形で読者に提示されるのだが、これがみずみずしく赤裸々で日記を書いた者が亡くなっていることを本当に、本当に、残念に思ったほどだ。
 この物語は“死者の日記”が大半を占めている。内容はもちろん陰惨だが、これを大きく上回るみずみずしさがある。読んでいてグイグイ引っ張られる魅力がある。“狼の伝承”もなかなかのものである。

 物語の大筋は、三人の女性の死体の謎を“死者の日記(複数あり)”でたどることである。ミステリーに“男女間のドロドロ(男女間の性愛・愛憎劇)”という味付けがされている。
 それだけにとらわれてはならないと思った。阿呆なわたしが見当違いしていて、お前は全然読めていないといわれるかもしれないが、おそれずに書いてみる。この物語の底流というかテーマにあるのは“法と道徳”である。
 悪魔的な魅力を持つ男によりまわりは大混乱、平穏な生活を送っていた人々が巻き込まれ、個々人が持つ“法と道徳”がグニャグニャにゆがんでゆく。この歪みにも着目してみてほしい。とくに叔母さんのゆがみが哀愁を誘うし怖ろしくもある。
 それと、この死者の日記を手に入れて真相を確かめる若者が探偵的な役割をはたす。この若者視点で物語の全容がわかる構造となっている。この若者が死者の日記と現実の世界をつなぐ役割をはたして、かつ若者の物語が絡んでいる。
 死者の日記(2冊)を寿司(メイン)とするならば、若者の物語はむらさき、わさび、ガリ、あがりのよう印象である。つまり物語を補強・補助する役割になる。
 どちらかというと女性のほうが愉しめる物語のような気がする。わたしは男だが、主要の女性キャラにとても魅力を感じた。難解なところはなく読みやすく面白いと思いました。
 最後に、死者の日記は2冊だが、さらにもう1冊の日記の存在が……気になる方は本書をお手に取りください。

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