『時の地図』を先日読んだ。購入したのは1年以上前のことだ。引っ越してから未だに段ボールから荷物(主に本)を出しておらず、悪党パーカーを読みたくて探していて、目についたのでついでに引っ張り出した。
“SFが読みたい2010年3位”という緑色の帯が付いているハヤカワ文庫のNV。購入したのはおそらく帯に釣られたのかな? それともSFテイストの本が読みたいと思ったのかもしれない。ただ、購入してはみたもののあまり面白くなさそうなので放置したと思う。
ともあれ読み始めた。冒頭からなんだか嫌な予感。神の視点で書かれている部分で、このシーンから物語を始めようかとか言い出す。そしてそれがちょくちょく出てくる。それは作者の語りだ。つまり、「この物語は私が創作したのです」としつこく宣言されているわけで、気になるのである。それをあえてやっているのだから嫌な予感がしたのである。
物語の内容には触れませんが、3部構成になっています。面白いのは事実ですが、嫌な予感があるので警戒しながら読み続けました。第3部は意外な方向に話が飛んで行きます。SFらしい展開になるのです。ですが、“SFが読みたい2010年3位”でかつ、青背ではない白背のNVなのもなんだか引っかかりながら読み進めました。
そして無事物語は終わるのですが……なんていうか、やはりというか嫌な予感が的中しました。つまりこれはSFぽいNVなのです。それが悪いということではなく、駄目なパターンのSFぽいNVということなのです。
内容の核心に触れてしまいますがあえて“駄目なパターンのSFぽいNV”だと思った理由を書きます。物語はタイムマシーンをモチーフにして進められて行きます。1部と2部は面白いSFぽいNVだと思いました。で、問題は3部です。これはある意味SFといっても差支えないのですが……最後で作者がしゃやりでてきます。これが上手に処理されていれば良い余韻にひたれる物語になったのですが、わたしには“駄目なパターンのSFぽいNV”に思われました。
もう少し突っ込んでみようかな。タイムマシーンをモチーフにしているので平行宇宙の観念が出てくるのですが、これと作者のでしゃばりがとても悪いブレンドで最後にやらかします。つまり、平行宇宙は無限にあるのだからこの物語も平行宇宙のひとつだとのたまりやがるのです。鼻につきます。
もう全部ぶち壊し。興ざめです。この物語も平行宇宙のひとつという理屈は納得できます。物語の全知全能の神様である作者が物語にあえてでしゃばってでてきていた理由はこれを言いたかっただけなのです。作者のでしゃばりが警戒につながり物語に没頭できないというのもありましたね。
あとはタイムマシーンがモチーフでありながら3部では時間移動が超能力ですからもう笑うしかない。1部2部の面白さが台無しです。“平行宇宙の観念”というかその手のバリエーションはある意味もう手垢がついてしまっていると思うので、よほど上手くやらないと駄目だろうと思う。ハッキリいうと夢落ちぽくなってしまっている。